「ホロコーストの音楽」シルリ・ギルバート

ホロコースト
・・・・・第二次世界大戦中のナチス・ドイツがユダヤ人などに対して、組織的に行った大量虐殺を指すことばです。

「ホロコースト」と聞くと、「強制収容所」が浮かびます。

しかし、収容所への「道」の中には、「ゲットー」と呼ばれる「通過点」が存在します。
街を封鎖し、その一角に、ユダヤ人だけを住まわせる地区のことを、ゲットーと言います。

第二次世界大戦以前から計画的に行われていた、ナチスドイツによる、ユダヤ人迫害。
抵抗運動をしたドイツ人政治犯。
チェコ人・ポーランド人など。

戦前、戦中の中で、迫害を受け、処刑されていった人々の中に、「音楽」は、どんな「形」で存在していたのか・・・

本書は、2007年発行。
ナチス・ドイツの音楽活動や、思想ではなく、「被害者たち」の音楽活動について、最新の調査、研究されたものです。

ホロコーストの音楽~ ゲットーと収容所の生~
シルリ・ギルバート (著), 二階 宗人 (翻訳)
みすず書房
 

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※著者について
■ギルバート,シルリ
現在、英国サウサンプトン大学パークス研究所の上級専任講師(教授格)。
著者の祖父母は、ユダヤ系ポーランド人として、ワルシャワ・ゲットーを生き、ソ連での収容所生活をおくったのち、南アフリカへ移住しています。こうした経験が、アパルトヘイトや、ホロコーストの研究の原点になっています。

※訳者について
■二階 宗人
1950年生まれ。早稲田大学卒。
NHK特派員としてローマ、パリ、ジュネーヴ、ロンドンに駐在し、ヨーロッパ・中東・アフリカ総局長。
現職時代、東西冷戦を中心とするヨーロッパ情勢を取材。
この経験が、本書を翻訳する際に、大いに役立ったと述べています。

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序論の中で、著者は述べています。
「本書では、ユダヤ人収容所と合わせて、ドイツ人やポーランド人、チェコ人、それに収容所のその他の収容者についても、意識して取り上げることにした。」

また、意図的に、現在のチェコにある、「テレジン収容所の音楽活動は取り上げなかった」と述べています。

※テレジン収容所は、ナチスドイツが、世界からの非難をあざむく為に、「ドイツは、ユダヤ人にこんなにも、文化的な生活を提供している」というプロパガンダ(特定の主義・思想についての(政治的な)宣伝)のために、利用された収容所です。(その様子をフィルムに収め、国際赤十字に公開するなど)
ここでは、ヨーロッパ各地から、ユダヤ人画家、文学者、音楽家を集め、活動を「させて」いました。
最終的には、アウシュビッツなど、絶滅収容所に輸送され、処刑されました。
・・・・・・・・

本書では、「4つの環境」の中での、状況を最新の調査、資料に基づいて、紹介しています。

また、本書の大きな特徴は、「譜例」があることです。

感情を伝える歌、大道芸や合唱団、収容所の交響楽団など。
歌詞や、譜面34点収載されています。

■本書でとりあげる「4つの環境」
1、ワルシャワ・ゲットーの音楽

2、政治家とパルチザンたち

3、ザクセンハウゼンの生活

4、アウシュビッツの音楽


・・・・ひとことで、ホロコーストにおける音楽活動と言っても、その環境、立場、状況によって、皆異なる・・・

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それぞれの環境の中にも、階級があり、富める者があり、あらゆる手段を使って人びとが、「生き抜こう」とした現実が浮かび上がります。

ゲットー内での富めるユダヤ人層と、強制収容所内のドイツ軍にとっては、娯楽としての音楽が存在したこと。

楽器を手にできた人は、プロでも、アマチュアであっても、そこでの「音楽」は、生きるための戦いであり、手段であったこと。

時には、音楽が、人々の心を慰め、やすらぎの「幻想」のために役立ったこと。

圧倒的な人々は、「音楽」とは、無縁のところにいたこと。

強制収容所内で、高度な技術を持ったユダヤ人が集められ、決して妥協しない指揮者のもとに、奇跡のようなオーケストラが存在したこと。

処刑される集団、朝夕の強制労働への点呼の場で、演奏を強制されたオーケストラがあったこと。

大規模な収容所には、必ず自前のオーケストラが存在したこと。

「刑罰」として、「歌う」行為があったこと。

・・・・・・
★楽譜・歌詞の中より
■「哀れみよ、ユダヤ人の心よ」より

壁と鉄条網に囲まれ
ゲットーは、死と闘っている
人びとは 影同然
骨はまがり、体はひからびている

哀れみよ ユダヤ人の心よ
なにか食べるものを
それとも、いくばくかのお金を恵んでください

哀れみよ ユダヤ人の心よ
まだ生きたい まだ世界を見ていたい!

■「ビルケナウ」より

鉄条網に囲まれた世界の一角
人びとは ただの番号

下劣なものが 兄弟を虐げるところ
そして、死がその骨ばった手を伸ばしている

地獄はどこだと尋ねられたら
答えは簡単だ

ビルケナウ それはビルケナウ

・・・・
書き残すことの許されない人びとは、こうした「歌詞」を「伝える」ことで、限りある自分の命を、後の世の人へ「記録」として伝えようとしました。

楽譜の調性、音の跳躍、リズム。
こうした観点からも、本書ではその「意味」の考察が行われています。

・・・・・
■あとがきより
これまで、音楽は、人間の基本的な尊厳を守る「媒体」であったと考えられてきた。
ところが、異なる見方をする、無数の証言や作品を通して、事実は必ずしもそうでなかったことを、歌詞自体が証している。

また音楽が、自尊心をよみがえらせ、苦難の中にある犠牲者同士の絆を強くすると、考える者もいる。
しかし、これまでみてきたように、それが単純な英雄的行動であることは、めったになかった。

これらの考えは、犠牲者たちに、敬意を払わないとか、彼らの死が無意味であったということでは断じてない。

むしろ、希望や楽観。勇気と恐怖。反目。矛盾する行動。
そうした人びとの「生の豊かさ」を、認めることが、実はいっそう誠実に、敬意を表することになると、筆者は確信している。

・・・・・・・・
自分にとって、圧倒的な重みを感じた本でした。

「音楽の力」

私はこのことばを、改めて考えます。

生還した方々の「その後の人生」に音楽は、どういう意味を持ったのか・・・

考えます。

答えなんて見つかりません。
それでも、考えて、考えて・・・考え続けたいです。

何度も読み直したい本です。

・・・・・
■この本は、こちらからもお求めいただけます。
ホロコーストの音楽―― ゲットーと収容所の生

★「音楽」を主題にした本の中には、以下の本もご紹介したいと思います。
■アウシュビッツの音楽隊
シモン ラックス (著), ルネ クーディー (著),
大久保 喬樹 (翻訳)
音楽之友社


強制収容所から生還した、2人の証言をまとめたものです。
アウシュビッツと言う極限の収容所の中にあって、「音楽」がどのような役割を果たしたのかが、描かれています。

■この本はこちらかも、お求めになれます。
アウシュビッツの音楽隊

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東京都出身。元、公立中学校教員。
現在は、フリーとして、音楽教育や吹奏楽に関わっています。
このブログを通じて、音楽や教育、吹奏楽やその他、心に感じた事柄をみなさまにお伝えできればと思います。
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